第42話

今でも密かに純の格好良さや色気に憧れている祐也は、



「だから、そういう顔してんじゃねーよ」



憧れてしまったことを後悔した。



……今まで、何度憧れ直しては後悔したことか。



「……沙那は、五十嵐の所か?」



純はやっと体を起こし、



「そこしかねぇだろ」



祐也は純の上から退きながら、また溜息をついた。



こういう時、沙那を励ますのは陽で、蓑虫になった純を叩き起こすのは祐也、という風に役割分担が決まってしまっている。



勿論、面倒くさいのは純の方だ。



たまには陽に交代して欲しいと思うのだが、それをすると純は多分、余計に拗ねる。



沙那に手を出したとか誤解を吹っかけられて余計に揉めるなどは、どうしても避けたい。



だから、今日も仕方なく純のおりを担当する。



「気になるなら、連絡すりゃいいだろ」



「……もし無視されたら立ち直れなくなりそうだから、したくない」



「蓑虫から脱皮したと思ったのに、次は弱虫かよ」



そんな祐也の皮肉に、



「……」



純は一瞬黙ったが、



「沙那だけが、俺の弱みなんだ」



ぽつりと呟いた。



「……沙那を失ったら、もうどうすればいいのか分からない」



そんな純に、祐也はもう本日何度目か分からない溜息をついた。



「自分でそこまで分かってるなら、どうすればいいのかも分かるだろ?」



祐也の言葉に、



「……」



純はベッドのサイドテーブルに置かれた自分のスマホをちらりと見た。

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