第37話

沙那さえ嫌がらなければ、本当は今のキスだって皆に見せつけてやりたいと思っている程。



沙那は俺のものだ、と周りに知らしめてやりたいというのが純の本音だった。



「こんなの、いつものスーじゃない」



沙那に涙目でキッと鋭く睨みつけられて、



「……」



純は黙った。



何も言わなくなってしまった純に、



「もういい。しばらくは私に近付かないで」



沙那はそう言い放つと、突然走り出した。



「あ、沙那……!」



純が引き留める間もなく、沙那は女子トイレの中に逃げ込んでしまった。



「……」



純がトイレの近くで沙那が出てくるのを待っていると、



「なぁ、桐生……」



男子トイレから出てきた祐也が、困惑した表情で純に声をかけた。



「お前、沙那に何かしたの?」



「……」



言いたくなくて黙ったままの純に、



「今、五十嵐からメッセージ来て……お前がいなくなるまでトイレから出ないって沙那が言ってるらしいんだけど」



祐也は自分のスマホの画面を見せた。



「……」



「あの沙那を怒らせるって、お前一体何したの?」



「言いたくない」



「……」



祐也はスマホをズボンのポケットにしまい込むと、頭をポリポリと掻いた。

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