第35話

「ちょっ、君、大声でやめてや!」



朝日は慌てたが、



「瀬戸 朝日!?」



「なんでこんな所に!?」



「握手してもらおー!!」



他の学生たちがわらわらと朝日の周りに集まってきた。



その隙に、純たち4人は食べ終えた食器をトレーごと持ってさっと席を立つ。



「なんで純には集まらへんねん!」



思わずそう叫んだ朝日だが、



「ここに毎日通っている俺は、もう珍しくも何ともないだろう」



純に当然のように言われ、



「あっ、待ってや!!」



そして見捨てられた。



サインだの握手だのを迫られている朝日を尻目に見ながら、



「助かったよ、五十嵐」



返却口に食器を戻した純が、陽に向かって礼を言った。



「食事中に目の前で殺人事件とか起きたら嫌だからね」



陽は本当に嫌そうに顔を歪めた。



「それにあの人、ガチで沙那のこと狙ってるっぽいし」



陽が心配そうに沙那を見ると、



「それは俺が絶対にさせないから」



純が再び沙那をぎゅっと抱き寄せた。



「……私は浮気なんてしないよ?」



沙那は不服そうな顔をして純を見上げる。



「沙那のことは疑ってない。沙那に男が近付くのが嫌なんだ」



純はそう言いながら、沙那を更に強く抱き締める。



「桐生、ここ学校なんですけど」



祐也が忠告したが、



「だから何だ?」



純の眉間に皺が寄っただけだった。

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