第34話

人目も気にせず――というより、これ見よがしに沙那を抱き締める純に、朝日は面食らったが、



「スー?」



「あーあ……」



「始まったよ……」



沙那、祐也、陽の3人ともが驚きもせずに普通にしているので、



「えっ? それもいつものことなん?」



朝日は更に驚いた。



「桐生君、いっつもわざとこういうことしてるから」



陽は特に気にした様子も見せず、



「沙那は俺の! ってアピールだよな」



祐也も苦笑しながら、自分の食事を進める。



「そんなん聞いたら、ますます奪い取りたくなるやん」



ニヤリと不敵に笑う朝日に、



「……桐生に殺される覚悟がおありなら止めませんが」



祐也はぼそりと呟き、



「沙那に無理矢理手を出したら、あたしがアンタの顔の原型なくしてやるから」



陽が思い切り朝日を睨みつけた。



「二度とテレビに出られない顔になるわよ」



陽のそんな台詞に、



「テレビ?」



祐也は首を傾げ、



「瀬戸 朝日でしょ、この人。テレビとは随分雰囲気が違うけど」



陽は朝日を指差した。



人を指差したら失礼だと分かっているが、勿論わざとだ。



そして、純も沙那も祐也も、全員が食事を終えたことを横目でちらりと確認した陽は、朝日が目深に被っていたキャップをさっと取り上げ、



「わー! 瀬戸 朝日さんだー! サインください!」



大袈裟に騒いでみせた。

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