第25話

純は沙那の方へ早足で歩み寄り、朝日からかばうようにして沙那を自分の影に隠した。



「こんな所で何をしているんだ」



無意識のうちに、不機嫌そうな声が出てしまった。



「……三上さんが、この間うちに来た時にピアスを失くしたって言ってて、見つけたから届けに来たの」



沙那がビクビクしながら純を見上げる。



「ごめんね……お仕事の邪魔しちゃった?」



沙那はちっとも悪くないのに、眉尻を下げて謝ってくる。



「いや……俺も、もう帰るところだ」



だから一緒に帰ろう、と言いかけて、



「君も三上社長と仲ええの?」



朝日が大声で話しかけてきた。



「スー……そちらは?」



沙那にそう問われては、無視するわけにはいかず、



「事務所の先輩だ」



仕方なく紹介した。



「先輩やうても、俺と純はこの間初めてうたんやけどな〜」



だらだらとした印象の関西弁に、沙那は少し不思議そうな顔をする。



「……あ。瀬戸さんだ」



テレビで観た時は、発音になまりのない標準語で話していたので、気が付かなかった。



「あ、俺のこと知ってくれてるんや?」



朝日は嬉しそうに笑った。



「純ほど売れてへんからなぁ、俺。三上社長とも滅多に会わへんし、純も社長に守られてて、同じ事務所内におっても、ずぅっとうたことなかったし」



そして、とびきり嬉しそうな笑顔を沙那へと向け、



「この間、初めて仕事で一緒んなってな! 俺、純に一目惚れしてもうてん!」



そんな爆弾発言を投下した。

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