鬱色。

第23話

純には最近、大きな声では言えない悩みがある。



それは――



「なぁ〜。ホンマにちょっとだけでええから、頼むって〜」



金髪で両耳にたくさんのピアスをつけたこの男――瀬戸せと 朝日あさひである。



純と同じ芸能事務所に所属するタレントで、ついこの間、テレビCMの撮影で純と共演した際に初めて顔を合わせた。



「俺、お前にカノジョとかおっても別に気にせぇへんから!」



「……」



純は朝日の声を無視して、会社の廊下を無言で突き進む。



「なぁー! 一遍いっぺんだけでええから、抱かせてくれって!」



大声で叫んだ朝日に、



「!?」



純は慌てて後ろを振り返った。



「お前っ……大声で何を……」



鋭く睨みつけてくる純の顔を見て、



「あぁ〜、やっぱりええなぁ……お前のその顔も声も、めっちゃ俺好みやわぁ」



朝日はうっとりしたように、ほぅっと溜息をついた。



「……変態野郎め」



純は忌々しそうに顔を歪めたが、



「うわぁー……その顔もめっちゃ好きやわぁ」



朝日は純が何をしても、うっとりするだけだった。

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