第22話

それからしばらくして、スナオの里親が見つかったと陽から沙那の元へ連絡が入った。



陽のバイト先のパートさんで、純の大ファンだという彼女は、スナオの写真に一目惚れをしたらしかった。



勿論、純の家で数日飼われていたことは、彼女には内緒にしてある。



そして、スナオの名前も、そのまま引き継がれることになったのだそう。



沙那がスナオのために用意したキャットフードや猫用ベッドなどは、全てスナオの里親に引き渡され、



スナオがこの家にいたというしるしが、全てなくなってしまった。



残ったのは、沙那のスマホの中の写真のみだ。



「何か、凄く寂しくなったね」



沙那がぽつりと言うと、



「そうか?」



純は何とも思っていなさそうな返事をした。



しかし、その態度とは裏腹に、



「……」



純は時々、リビングのソファーのすぐ隣の床を見つめていることがある。



今は何もないが、スナオのベッドが置いてあった場所だ。



「スー? どうしたの?」



沙那が訊ねると、



「……何でもない」



純はすぐに、床から目を離す。



そして、ふと自分の右手の甲を見た。



スナオに引っ掻かれて出来た三本の線は、もう随分と薄くなって消えかかっていて――



純はそれを、左手の指先でそっとなぞる。



「……幸せになれよ」



ぽつりと呟くように零れたその言葉は、



「え? 何?」



沙那にはしっかりと聞こえていたが、敢えて聞き返すと、



「いや、何でもない」



純は何事もなかったかのような顔で首を横に振った。

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