第8話

スナオを預かってから、数日が経過した。



甲斐甲斐かいがいしくスナオの世話をする沙那を、



「……」



純は何か言いたげな目で見つめながらも、何も言えずにいた。



よく食べてはよく眠るスナオを、



「スナオはいい子だね〜」



沙那は優しく笑いかけながら撫でている。



いつもなら、沙那と2人きりで甘く過ごしているはずの時間帯。



スナオの世話で忙しそうな沙那と、ここ数日の間触れ合えていない純は、



「……」



それでもやはり何も言えずに、黙って見ているしかなかった。



リビングのソファーでぽつんと座っている純の隣に、



「スー? どうかしたの?」



スナオが寝付いたので、やっと一息つこうとした沙那がストンと腰を下ろした。



「……沙那は……」



「うん?」



「そいつのことは名前で呼ぶのに、俺のことは呼んでくれたことないよな?」



「……うん?」



沙那はここで初めて、純の嫉妬の感情に気付いた。



「スー? スナオは猫なんだよ?」



「それでも、オスだろう?」



「でも、まだ小さい子猫なんだよ?」



「……それが?」



純の不機嫌そうな顔を見て、沙那は思い出した。



純は、メスのバンドウイルカにすら嫉妬したことがあるのだ。



純の嫉妬の対象に、性別や種族なんて関係ない。

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