第119話 上忍同士の手合わせ(アヤセ対サカキ)

(17歳と21歳か……。こんな年下のものたちといっしょに訓練なんて――)


 リョウガ26歳は歩きながら気分が沈んでいた。

 いきなり上忍になる資格ができた、と言われただけでも戸惑っているのに、元桔梗忍軍の仲間たちからは『桔梗忍軍初の上忍だ、よくやった!』とめちゃくちゃ喜ばれるし、迷惑でしかない。しかも白露の上忍カイは目が見えない、とかわけがわからない。


(いっそ上忍失格と判断されて、今まで通り中忍として生きる方がいいかも)

 リョウガのやる気はどん底だった。


 サカキが訓練所の担当の忍者に「グレード3で頼む」と言った。

 なんだ?グレード3って。(身分証明をしたものだけが見学可能)


「ではまずアヤセからだ」

「はい」


 2人は練習用の木忍刀を両手に構える。今回は忍刀のみでの手合わせだ。


 先に打ちかかったのはアヤセ。

 縮地を使って距離を詰め、サカキの迎撃が届く前に上方向に飛ぶ。

(早い……!上忍のスピードだ)


 その着地点を予測し、サカキが移動する。


 が、アヤセは空中で身をひねり、そこからさらに縮地を使ってサカキの後方へ軌道を変えた。

「ほう」

 サカキがうれしそうな声で言った。


 アヤセの忍刀は空を斬った。サカキは床に手をついて忍刀を避けたあと、前方に飛んでいったん距離を取る。

 アヤセは渾身の動きを読まれていたことに驚いたようだ。

 リョウガも驚いた。


(サカキは後ろにも目があるのか?)


「先日の訓練の時よりもよほど指導のしがいがある」

 サカキの切れ長の瞳が細まり不吉な光を放った。


 ガン!

 と木忍刀が鳴った。

(いつの間に?!)


 サカキの言葉が聞こえた位置とはまったく別のところから忍刀がアヤセに下から襲い掛かり、アヤセはギリギリのところで手甲で受け止めた。

(……サカキの姿が見えなかった、おそらくアヤセにも。上忍の目でも捉えられないほどのスピードだったのか)


 リョウガは目を見張る。

 アヤセは無理に手甲を押し戻そうとはせずに、サカキの力を受け入れ、体を床に転がして間合いから逃れる。


 カイがあごに手を当ててうなずいている。

「いいですね、サカキ殿の重い攻撃を受け流せた。無理に反撃しようとすると体力がごっそり削られるところでした」

「幻体目のなせる技だな。アヤセは一度俺の攻撃を見ている」

 サカキの瞳は細まったままだ。


 リョウガはぞっとする。


(これが上忍……)

 幻体目を会得したばかりのリョウガにもわかる。サカキはまだ半分の実力しか出していない。


 アヤセの呼吸が浅く、短くなっている。

 対するサカキは静かなままだ。


 2人は同時に仕掛ける。

 木忍刀がぶつかる音がけたたましく響く。


 まともに向き合うと手足が長いサカキのほうが有利だ。

 だが、アヤセは見事な足さばきで自分の間合いを広げ、不利を果敢に埋めている。


(あっ、視えた!)

 サカキの忍刀にわずかな隙が生まれたのがリョウガの目にもはっきり見えた。

 だが、アヤセはその隙をつかず、むしろ距離を空けた。


(反撃できる絶好のチャンスだったのに……)


「引っかからないか。見事だ」

 サカキが笑う。


(えっ?)


 ひょっとして今のはわざとだった?

 リョウガがそう思ったとたん。


 アヤセが右下から逆手に持った忍刀でサカキに斬りつけるが。

 サカキはアヤセの刀を受け止めるはずの自分の右手の刀を手放した。


「!」

 いきなり間合いが変わる。

 アヤセの顔が驚愕にゆがむ。

 サカキは手甲で忍刀をするりと受け流すと同時に素手の拳をアヤセの顔面へ叩き込む。


 これは避けられない!

 リョウガは素手のスピードに驚いた。

 刀を振るうよりも速い。


「くっ」

 アヤセは後ろにのけぞってサカキの拳を躱した。

 そのアヤセの視界を覆うようにサカキの右足がブン!とうなりを上げて襲い掛かった。


「ここまでだな」

 サカキの右足はアヤセの顔寸前でピタリと止まっていた。

 しかし、その衝撃でアヤセの髪紐がちぎれ飛び、頬には一筋の切り傷が走った。


 サカキが足をおろして離れると。

「あ、ありがとう、ございま……」

 アヤセは白目をむいて後ろへ倒れかかる。


 カイとサカキが2人同時に駆け寄ってアヤセの体を抱きとめた。

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