第46話 形見の予約
ヒムロがほっとして解説した。
「あれは土遁と風遁を合わせて砂粒にものすごい回転を与える遁術で、地面を足で蹴って逃げようとしたらその足がまず砕かれる。
避けるにはケサギのように刀や何か高い物の上に乗ってそこから10ハロン(メートル)以上一気に離脱するしかない」
「「なんて恐ろしい術だ。無理だ……」」
見学人たちの背筋が凍り付いている。
「ああ、アゲハちゃんなら風遁で自分の体を一気に浮かせられるなら避けられるかもしれない。ただ、発動は0.5秒以内にしないと」
「ううー、ギリギリ無理かも……鍛錬します……」
サカキが手に持った大太刀・銀河をケサギに渡してやる。
「感謝する!この銀河、オレが死んだらお前にやるよ」
「いらない。俺にはこの大太刀・
ケサギが泣きそうになる
「つれない事を言うなよおおおおお」
「それより、その左手の
「ああ、こっちならいいよ。右手の
「わかった。では俺の左手の
右手の
ムクロの顔が輝いた。
「え、いいの?やったー!じゃあワタシの右手の
上忍3人がそれぞれの愛刀の銘についてワイワイと話に花が咲いたのを見て、ダンは空気を読んでしばらく待機することにした。
ユーグとロルドとスパンダウも話し合っている。
「ワシらもなにか形見の予約するか?」
「ユーグやスパンダウの剣もらっても私にはねえ……」
「ワシはロルドのワイン蔵がほしい」
「私もワイン蔵に一票」
「欲張りさんたちめ!」
とこちらでも笑い合っていた。
「ヒカゲ、俺が死んだら
「……うん……でも、ヒムロさんはまだ死なないでほしいなあ……」
ヒカゲの癖毛をヒムロがわしゃわしゃとかき混ぜる。
「そう簡単には死なないよ。もうちょっとお前が大人になれるまではな」
「……僕の
「ん?くれるのか?まあ、お前はあと30年生きろ。
生きて、それはお前が気に入った他のだれかに約束するんだな」
アサギリとヒシマルは互いに顔を見合わせて。
「私たちもなにか約束してたほうがいいかな?」
とアサギリが言う。
「
ヒシマルは首をかしげている。
「「一応、何か決めておくか……」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゾルは忍者たちのやり取りを見て考え込んだ。
危険な忍務をこなす彼らは、常に死と隣り合わせにいる。
だから生きてるうちにああやって信頼のおける者に後を託すのだな、と。
隣にいるアゲハに目をやると、口でもごもご何か言いながら風遁の術のトレーニングをしているようだった。
彼女も誰かと形見を交換する約束をするのだろうか。
いや、それよりも彼女が死ぬとか考えたくない。
考えたくはないが、考えないといけない。
このところずっと忍者たちと関わっていたのでゾルの人生観もかなり変わったように思えた。
今この時、いっしょに笑いあっていても明日にはいなくなっていることがあるのだ。それは忍者に限ったことではないけど……。
この経験はゾルに一つの目標を決心させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王女は、素のモードでありながら終始静かに手合いを見守っていた。
王女の後ろには白魔導士3人が護衛についている。
いつもならキャーキャーワーワーとうるさい王女が静かだと気味が悪い。
王女は目を見開いて上忍たちの一挙手一投足をわずかな瞬間も見逃さないよう集中していたのである。
アサギリたちが見えなかった速い動きも王女にはすべて見え、さらに記憶した。
王女を知る者が見れば驚くほど透明無垢な視線で戦いを己の記憶の中に収めたのである。
「さあ、そろそろお時間です。姫様、戻りましょう」
「……姫様?」
白魔導士が呼び掛ける。
振り向いた王女は目を真っ赤になっていた。
「わ、いかがなさいました?」
「お気分を悪くなされましたか?」
白魔導士たちが慌てると。
「ずっとまばたき忘れてて目が乾いちゃった……」
「「あー」」
と白魔導士たちは呆れて回復魔法をかけてやった。
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