第42話 お針子騎士団

 忍者たちは眉をひそめた。

(手合わせか?)


 スパンダウが右手をあげ、指をパチン、と鳴らした。

 ドアの外から

「「「失礼しまーす!!」」」

 とローシェ風作業服を着た15人が部屋になだれ込んできた。男性がほとんどだがふくよかな中年の女性も3人いた。パートさんたちである。


「「「お針子騎士団です!採寸いたします!」」」

 とあっけに取られている忍者たちを3人ずつで取り囲み、有無を言わさず服を脱がし始めた。


「えっ、ちょっと、まっ」

「わわっ」

「や、やめてえええ」


 サカキは慌てるが、あっという間に帯をほどかれ上着をするりと脱がされる。

 ムクロは服を抑えて必死に抵抗している。

 ヒカゲは対応できずに白目で直立不動、ヒムロは「おやおや」と言うだけ余裕がある。


 ケサギは男3人に脱がされながら

「どうせなら女性に脱がされたいーー!」

 と喚いた。


 その女性たちは、3人でひそひそと何やら話し合ってから、一斉にムクロに襲い掛かった。

「キャーー!」

 ムクロは軽々と3人に抱え上げられ、別室へと連れ込まれた。


「いやーそれはだめーー褌はかんべんしてええ」

 だの

「助けてええええ、なんで採寸なのに全部脱がせるのぉおおお」

 悲痛な悲鳴が続き、ふっと静かになった。


 隣から女性お針子たちの声が聞こえる。

「あら、この方男だったわ」

「顔が女らしいから女性かと思っちゃったわ」

「あらあら、背中に見事な竜の彫り物が!」


 ムクロの背には一面に竜の入れ墨がある。

 任務で失敗したときに受けた火傷の傷を隠すために彫ったものであった。


 お針子たちは、ちゃんと台も持参していて、それに乗りながら巻き尺で身長、手の長さ、足の長さなどをてきぱきと計っていく。

 その採寸は徹底していて、手足の指の長さから首の太さ、尻の丸みの幅など全身のあらゆるパーツを計った。


 スパンダウが笑いながら説明する。

「忍軍用の軍服を作るのでね。基本のデザインは王女陛下がなされたので期待してくれ。

 君たち5人は将校クラスとしてロングコートタイプになる。それ以外は体にフィットしたフード付きの上着とズボンにベルトタイプだな」


 その5人は褌一丁の姿にされ、お針子たちに「腕曲げてー、足開いて―」といいようにポーズを取らされている。


 ひときわ体の大きなお針子が感心して言った。

「みなさん、細身に見えますけどしっかり筋肉ついてますね!しかも関節が柔らかい。

 あ、申し遅れましたお針子騎士団の団長ダン・ミューゼルといいます。よろしくね!」


 ダンはユーグ大将軍のように筋骨が山のように盛り上がった恵体の男で、針を扱う様にはまったく見えなかった。

「デザインや布地はすでに用意できていますので、これからは実際に着て戦闘したときの状態をみたり、忍者さんたちの武器を隠すための内部構造などを詰めていきます。ちょくちょく参りますので最優先で応じていただけるようお願いしますね」


「「わかりました……」」

 忍者たちは疲れて抵抗する気もなくなっていた。


「はい、では次はスパンダウ様!」

「えっ?私も?」

「最近ちょっとお太りになったでしょ!採寸しなおしますよー!」

「わああ、ちょっとそれは予定にな――」

「「問答無用!」」


 と10人がかりで鎧を脱がされ、忍軍とその長は計らずしも裸の付き合いからのスタートになった。

 やっと解放されたムクロは部屋に戻って来たが。

「もうお婿に行けない」

 と服で股間を隠しながらシクシク泣いていた。

 彼だけ全裸にされ、ナニのサイズまで測られていた。


 先に5人の採寸が終わり、スパンダウが疲れた声で「今日はこれで終わりです」と告げた。

 忍者たちは服をささっと身に着けると、サカキの「散!」という掛け声で4人が会議室から消え、お針子たちが目を丸くする。

 しかし――


「あ……」

「あ……」


 部屋には下着一枚だけのスパンダウと散開しそこなった裸のムクロが残されていて、互いの顔を見た。

 気まずい。

 ムクロは顔を真っ赤にしながら

「す、すいません服を着たらすぐに散りますので……」

「い、いや、お気になさらず、どうぞごゆっくり」


「おそれいります……」

 と消え入るような声で言うと、ムクロは慌てて着たために乱れた服装のまま、ボンッと白煙を出し、シュッと消えた。


「忍者……思ってたのと違うが、おもしろいな」

 スパンダウは、手で白煙を払いながらつぶやいた。

 わざわざこの日を狙って採寸させたのは、忍者たちの裸体を見ることで彼らの戦歴がわかるからだった。

 忍者たちがお互いの人となりを理解するのに手合わせをするのと同様に、騎士は体を見ることで理解を深める。

 忍者たちの体はいずれも全身に大小の傷跡があり、全員が死線をかいくぐってきた強者(つわもの)であることがわかる。



 スパンダウは両腕を組んでニヤリと笑っていたが。

「ほら、にーちゃん、まっすぐ立って!」

「ひゃっ」

 とパートのおばちゃんにお尻をぺちんと叩かれた。

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