第15話 初の依頼

 ――ドルミラ村――


 アサギリとヒシマルの就職試験を見た後、ロルドは興奮していた。

 サカキの戦闘能力はこれからのローシェ王国に絶対に必要になってくる。

(なんとしてでも彼がほしい!ほしいぞぉおおお!)


「今夜にでも、お部屋に伺いますが?」

 サカキがいつの間にか傍に立膝で控えていた。


「えっ、私、声に出てた?」

「心の声が聞こえました」


 ぼんっとロルドの顔が赤くなる。

「いやいやいや、変な意味じゃないんだ、ご、誤解だ」

「遠慮なさらず。雇い主の性欲処理も忍者の……」

「おい、サカキ、年頃のお嬢さんもおぼっちゃんもいるんだ、もう少しふんわりと言え」

 ヒムロが注意した。


 サカキはちょっと考えて

「雇い主様のご期待以上に素敵な夜をお届けするのも忍者の務めでございます」

 と男性風俗業者(ホスト)のようなことを言い出した。

 アゲハとヒカゲに加えて、なぜかアサギリとヒシマルまで顔が赤くなっていた。

 逆効果である。


「だからーーー!そういう意味じゃないんだって……いや、待てよ?そうか、私の部屋に来てもらえればいいのか!今夜こっそり誰にも知られず来てもらえる?」

 ロルドはウキウキして言った。


 サカキは

「承知いたしました」

 と返事をしたあと。

「ここにいる者には知られていますがかまいませんか?」

 と、小声でそっと指摘した。


(それもそうか)

 ロルドは自分のはしゃぎっぷりが恥ずかしい。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ――宰相執務室・深夜――


 ロルドは昼から引き続きドキドキしていた。今は深夜2時。サカキが来る時間である。

 部屋はランプの灯りだけで薄暗い。

 窓は少し開けておいた。


 ロルドの寝室は殺気と武器を持つものをける2種類のバリアが常時貼られている。サカキなら問題なくすり抜けてくるだろう。

 窓をふと見て変わりないな、と思って振り向くとすぐそばにサカキが立っていた。


(わあっ)

 と思わずロルドは声を上げたが、サカキの手がやんわりとロルドの口を押えて外には声が漏れなかった。


「ああ、びっくりした、いつ入って来たの」

「あなたが窓を見たときに。俺は気配を完全に消せますので」

「そ、そうですか、まあそっちの椅子に座ってね。……酒はイケるクチかな?」


「それなりに」

 とサカキは目で微笑んだ。声が少しくぐもっている。

 彼はで忍者服に着替えていた。

 頭巾も口布も付けており、顔は目元だけしか見えない。


「うれしいねえ。あんまり周りに飲み友達がいなくてね。良い酒が手に入ったので飲みながら話をしよう」

 ロルドはいそいそとグラス2つによい香りが立つぶどう酒を注ぎ、ひとつをサカキに手渡した。

 サカキは口布を下げて、グラスを傾けた。


「さて、私は前置きが長いのは苦手でね、率直に言うよ」

 サカキがうなずく。


「君に2つの依頼があります。1つは……私はローシェ忍軍を作りたいとかねてから思っていました」

「ローシェ忍軍……でございますか」

 サカキは驚いている。予想外の大事だ。


「うん。それには王国の事情があるのでね。それだけではありませんが、詳しくはおいおい説明するとして、いずれ我が国に他国の忍軍が攻め入ってくることになります。

 まだ先の話ではあるけど、忍軍を作るのは時間がかかるよね?今からでもすぐに手を付け始めたい」


まさか外国で忍軍を作りたいと考える者がいるとは、サカキは今まで思ったことなどなかった。ロルド宰相という大国のトップ官僚がそう考えるほどローシェは不穏なのだろうか。


 そしてロルドにはその不穏の影がはっきり見えていた。何か大きな”もの”がローシェを狙っている。だが、今は影の正体が何であるのかはわからない。


サカキはうなずく。

「承知しました。騎士団の方々の修錬場など拝見しましたが、あまりにも我らの戦いとはかけ離れている。闇夜に襲撃されればかなりの犠牲を出すでしょう」


「それなんだよねえ。私たちは君たちのような戦い方はできない。騎士の国だからね、昼間に正々堂々と正面からのぶつかりあいです。

 今まではそれでもよかった、白魔法の守りがあったから。だが、これからはそうはいきません」


 ローシェ軍の武装と殺気をはじくバリアは味方にも作用するため、戦闘開始時は消している。

 夜にはバリアを貼るが忍者は突破する手段があるのだ。


 サカキはグラスの中のワインを見つめて言った。

「初めて飲みましたがこれはいいものですね」

「でしょう?うちの領内で作ってるぶどう酒だよ。君、強いねえ。いやあ、うれしい、どんどん飲んでね」


「いただきます。で、忍軍の規模はいかほどで?」

「まずは50人。一個師団の半分相当で」

「わかりました。騎士とともに戦う、戦忍せんにん50名ということでよろしいか?」

「うん。忍者の変則的な戦闘から騎士をなるべく守ってほしい」


「戦忍なら俺の専門です。今から揃えて行きましょう。

 必要数に達するには少々お時間をいただきますが、忍者の戦いを騎士の方々に知っていただくための教練はすぐにでも始めるべきかと」


「話が早くていいですねえ」

 ロルドはうれしい。


「戦忍とは別に20名ほど諜伝(ちょうでん)も必要です。本来なら輜重しちょう隊も必要ですがそれは騎士団にお任せするとして、戦闘時の忍者の情報共有の仕方は騎士の方々には無理だと思います。目や手の合図、指笛など、訓練された夜目の効く忍者でないと。

 戦闘に参加せず、変化する状況を読んで軍隊の隅々に伝える諜伝は役に立ちます」


「わかった。ではそれで頼む。費用はすべて王女のポケットマネーから出るので心配しなくていいからね。いくらかかってもかまいません」

「……相当な費用になりますよ、大丈夫ですか?」

「ふふふ、王女は世界でも有数の個人資産持ちだよ。ナイショですけどね」

「それなら……」


「いずれ忍軍は正式に我が国の軍隊として認めさせます。それまでは王女からの資金でやる。予算を通すのは大変だが死ぬ気でやりますよ私は!」

 ロルドは右手をグッと握ってニヤリと笑った。

 どういう恰好をつけてもやっぱり粉屋のおやじっぽいな、とサカキは口元を緩ませた。


「で、もう一つの頼みですが……」

 ロルドは言いよどんだ。

(すごく頼みにくい内容なんだよねえ)

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