第13話 就職試験

「では」

 サカキの目がすっと細まり不穏な光が灯った。まるで刃の切っ先のようだ。

「面接は合格だ。2次試験は実技で行おう」

 サカキが不敵に笑う。

 空気がずしり、と重くなる。戦闘態勢に入ったのだ。


 アサギリとヒシマルも瞬時に対応し、刀に手をかけて言った。

「こう来ると思ってましたよ」

「やっぱり世の中甘くないなあ、就活って厳しい……」


 その人となりを知るには手合わせをするのが一番、が忍者の考え方である。


「ハンデはくださるんでしょうね?」

「ああ。俺は武器は使わない。忍術も異能もだ。しかもこの動きにくい恰好ではな。足技も封印しよう。

 貴殿らは真剣で2刀を抜け。暗器もいいぞ。全力で来い!!」


「ありがたきっ!」

 アサギリが背から忍者刀を2本、逆手に抜いてザザザっと音を立ててサカキに迫る。

 (速い――)

 ヒシマルは同じく忍者刀を2本、順手に抜き、跳躍する。


 アサギリが初手、とみせかけて、先に斬りかかったのは着地したヒシマルだった。


(いい連携だ)

 サカキは二人の動きから目を離さない。

 ヒシマルの右手の刀を手甲ではじき、体を傾け、迫るアサギリの左手刀をぎりぎりの距離でかわす。

 逆手の刀は体に隠れて見えにくいが、サカキは体の動きで正確に読んでいた。


 ヒムロがロルドの前に手を伸ばした。

「おっと始まってしまったな、ロルド様、危険ですのでこちらまで下がってください」

 ロルドはヒムロに促されて下がりながらも興味津々で忍者たちの戦いを見つめた。


「こんな近い距離で忍者の戦いが見られるなんて!」

「あなた、ひょっとして忍者オタクで?」

「身もふたもない言い方だけど、そうですよ!」

「じゃあ、わかりやすいように彼らの戦闘の解説してさしあげよう。アゲハちゃんも勉強になるので聞いときなさい」


「「お願いしますぅ!」」

 ロルドとアゲハは乙女のように目を潤ませて両手に拳を握って言った。


 カカカカッという音とともに土煙が立つ。手裏剣が地面に5本突き刺さっていた。

 投げられたそれをすべて躱し、サカキは跳躍してヒシマルの懐に入る。

「!!」


 のけぞるヒシマルの右手を掴んで引き戻し、彼の体を背負って投げた。

「ふんっ」

 地面にたたきつけられる寸前、ヒシマルは左手の刀を離し、体を丸めて受け身を取った。


 ヒムロ先生が解説する。

「いい勝負しているように見えるが、サカキは彼らにわざと遠距離・中距離・近距離戦をさせてその手腕しゅわんを計っている。

 手裏剣の投げるタイミング、近づいてこられた時の反応などだ。


 桔梗忍者たちもわかっていてうまく対応できているが、サカキの攻撃はすべて重い。

 避けても風圧で体力がどんどん削られている」

 その言葉通り、2人の息がわずかな時間でかなり荒くなっている。


「なるほどなるほど……これはわが軍でもぜひやってもらいたい教練方法だな……そうか……」

 とロルドがぶつぶつ考え込んでいる。


「サカキ様、半分も速度出してない……」

 ヒカゲもぽそりとつぶやいた。


「そうだな、ロルド様にもアゲハちゃんにもよく見えるようにしてくれてるね」

「本当はこれよりもずっと速い動きなんですね、……目が回りそう」


 転がるヒシマルをさらに追い詰め、押し倒して地面に抑え込むサカキ。

 その背に向かってアサギリが苦無くないを2本投げる。


 それを振り返らずに左手を背で曲げてサカキが弾く。

 同時にヒシマルの右手の刀がサカキの腰に付きたてようと迫る。


「今の苦無はサカキが弾く、とわかっての投擲とうてきだな。避けるとヒシマルに当たる」

「そこまで計算して戦ってるんですか」

「使えるものはなんでも使うのが忍者だからね。味方の体も使わざるを得ないときもある」


 できた隙を見逃さず、アサギリはサカキの背に忍者刀で斬りかかる。

 サカキはヒシマルの刀を手刀で叩き落とすと同時にヒシマルの胸ぐらをつかんで引き起こし、その体と自分の位置を入れ替えた。


「くっ」

 アサギリの刀がヒシマルの体に触れる瞬間、手を開いた。カチャリ、と音を立てて刀が落ちる。

「さっきのお返しだな」

 ヒムロが笑う。


「すっごい卑怯!」

「ヒシマルさんかわいそう」

「それが忍者です」

 ヒシマルはサカキにもアサギリにも盾にされて泣きそうな顔だ。


 アサギリはすぐさま飛んでサカキの背後に回り、懐から取り出した鎖鎌を投げてサカキの右手に絡ませた

 だが。

 サカキは鎖を掴むとぐい、と引っ張り、アサギリの体は力負けしてサカキに引き寄せられた。

 鎖鎌を離すが、遅かった。


 バランスを崩したアサギリの背後から右手で首を決め、サカキは相手の左手を背中側にがっちりと固めた。

 カバーで入るはずのヒシマルはすでに首を絞められて半分意識が飛んでいた。


「ここまでだ」

 サカキが告げる。


 ヒシマルはゴホゴホっと咳き込み、解放されたアサギリは「強い……」と息を吐き、地面に膝をついてゆっくりと倒れた。

 戦闘中はそういうそぶりは見せていなかったが、かなり消耗していたようだ。


 2人とも地面に横たわり、しばらく胸を激しく上下させて喘いていた。

 サカキは息一つ乱れていなかった。


 2人は息を整えた後

「「ありがとうございました」」

 と地面に両ひざをついて深々と頭を下げた。


「よく耐えた。今日からよろしく頼む」

「「ははっ!」」

「ご就職おめでとうございますー!」

 とアゲハが拍手をするのを見てアサギリとヒシマルは顔を赤らめて照れた。

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