第11話 中忍ヒムロとヒカゲ登場

 ――ドルミラ村――


 桔梗忍軍とオボロの襲撃により、山吹忍軍は多くの忍者を失った。

 上忍の六と中忍5名が討ち死にし、下忍に至っては総勢51名のうち30名が死亡という惨事である。

 生き残った下忍21名のうちくノ一(女性の忍者)5名は全員生存しており、男忍者は16人が当時里の外の忍務に就いていたため生き残った。


 そのうち、中忍のサギリは致命傷を負っていたが白魔導士の上位回復魔法により一命を取り留め、ドルミラ村で静養している。

 中忍は総勢8名いて、残りの2人は偶然里の外にいて生き残ったという。


 入城した次の日、サカキはドルミラ村で中忍2人と再会した

「ヒムロ、ヒカゲ!」

「サカキ!」

「サカキ様!!」

 2人が駆け寄ってくる。


「無事だったか!」

「ああ、偶然里の外で小競り合いが起ってな、ヒカゲといっしょに止めに出てた」


 ヒムロは黒くて太い眉と目の下の濃いクマが特徴の30歳、角ばった体躯といかつい顔はまるで肉屋のおやじのような風貌だった。

 サカキよりも階級は下だが、幼いころからの付き合いでお互い敬語は使わない。


「サカキ様……よかった……」

 ヒカゲは顔色が悪くやせぎすで暗い表情の17歳。赤味を帯びたくせっ毛の黒髪を適当に結んでいる。瞳は単純な茶色。

 ゾルと同い年だが彼よりも年下に見える。

 人間が嫌いで会話も不得手なため、人付き合いの天才のヒムロに付いて回るようにサカキが指示していた。

 そのおかげで最近は少しマシに話ができる。


「お前も無事でなによりだ」

「はい……はい……」

 あまり感情を表に出さないヒカゲも目を赤く腫らしていた。


 ヒムロとサカキは肩を叩き合って喜んだ。

 ヒムロの後ろには忍者が2人、所在なく立っていた。


「彼らは?桔梗のものか」

 忍服の色味が山吹のものとはわずかに違う。山吹忍軍と桔梗忍軍は同じ藩の味方同士ではあるが、忍則が桔梗は厳しく、山吹は緩いせいで仲は悪かった。戦では協力することもあるが、普段の交流はまったくなく、サカキはこの2人は知らなかった。


 ヒムロが答えた。

「ああ、桔梗忍軍の生き残りだ。悪い知らせだサカキ、桔梗の里もつぶされたぞ」

「なんだって――」


 そのとき、ロルドが秋だというのに汗をかきながらやってきた。

 今日はちゃんとした宰相のかっちりした服を来ている。


「ふうふう、運動不足がひびくなあ。ああ、いたいた、サカキ君、アゲハさん、昨日はよく眠れたかね?」

「おかげさまで」

「たくさん寝られました、お気遣いありがとうございます!」


「それはよかった。中忍の方々来たと聞いてね。紹介していただけるかな?」

「こちらのごつい方がヒムロ、中忍の1位で人心掌握と実務にかけては里一番の手練れです。

 細っこくて顔色の悪い猫背はヒカゲ。中忍の2位。彼はまだ17歳で人との関りが苦手ですが、戦闘能力は上忍に匹敵します」

 サカキが2人を紹介する。正式にロルドが雇い主となったので敬語に改めている。


「おお、それはすごい!」

「こちらはローシェ王国の宰相・ロルド・ヴァインツェル様だ。里をお助けくださった方で今は我らの雇い主だ」


「粉屋のおやじさんかと思った……」(※粉屋=水車小屋の番人をしており、水車で挽いた小麦粉やそば粉を売る商売)

 ヒカゲがぽそぽそとつぶやいた。

「あ、やっぱり?」

ロルドには聞こえたらしい。


「こら、失礼だぞ」

 ヒムロがたしなめる

「いいんですよ、ローシェでもよく言われますので……」

 ロルドは眉毛を下げて苦笑した。


「あーよくわかりますぞ、宰相どの。私もよく肉屋のおやじと言われますのでね。なぜか特定の商売をやっているように見られる風貌らしい」

 ヒムロが早速フォローに入る。

 ロルドのつぶらな灰緑の瞳がキラリと輝いた。

 同類が増えてうれしいのだろう。


「見かけでイメージが決まるって実はけっこうツライんですよねえ。平気なフリはするんですが」

「ほんとほんと、いやあ、君とは話が合いそうだ、どうです、今度一杯?」

「いいですな、ローシェのうまい酒について教えていただきたい」

 ヒムロがあっという間におやじ同士の会話に突入している。


(さすがだな)

 とサカキはヒムロを見て笑う。ヒムロの人心掌握力は頼もしい。


ドルミラ村の朝は心地よい風が吹き、サカキの着物の裾を揺らしている。 

今のサカキは、丈が足首まである長さで袖は大振りの上衣に華やかな柄の腰帯を巻き、下は柔らかい布の袴風ズボンという異国の剣客服を着ていた。


 王国から支給されたものだが、忍者服よりも袖が長く、歩くたびに長い裾がヒラヒラと翻るので戦闘には向いていない。

 髪は後頭部の高いところで房の付いた紐でひとくくりにしている。


 アゲハは足首まである黒いワンピースに白いエプロンをつけ、頭はヘッドドレスと呼ばれているメイド用の飾りをつけて、サカキの後ろでおしとやかに控えていた。剣客様御付きのメイド、という装いである。


 2人の桔梗忍者は、頭巾をかぶっていて目だけしか見えないが歳はどちらも24、5ほどだろうか。

「アサギリと申します。桔梗の里の中忍です」

 目も眉も細目で鋭角的な印象である。


「ヒシマルと申します、私は下忍でして」

 こちらは丸っこい瞳と丸めの眉でアサギリとは対照的な顔立ちだ。


 話を聞くと、彼らは桔梗の里で20名の中忍・下忍に、内容まではわからなかったが異常な指令が下されたのを知り、山吹の里へ忠告に行ったのだという。

「桔梗と山吹は表向きは仲が悪い、ということになってますが、実際はお互いに陰で協力し合っている、大事な味方です」

「そうか、貴殿らは諜(ちょう)のものか」(諜=二重スパイ)

 2人はうなずいた。

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