第6話 里人救出へ

 レイスル家の近くで演習を行っていたという第3騎兵団45騎がすぐに到着し、サカキはモクレンに乗せていた自分の忍着と武器・暗器をすべて身につけ山吹の里への案内人となった。


「お前、本当に丸腰で侵入してきたんだな……」

 ユーグが馬上で呆れて言った。


 今のサカキは黒の忍着に頭巾で頭と口を隠し、腰の背中側に二本の忍者刀を交差させて帯に差し、背にはもう一本、刀身が90ハルツ(90cm)を超える大太刀を左肩から斜めに掛けていた。


「正体を知られるわけにはいかないからな」

 アカネのおかげで台無しになったが。


「だが、それが白魔導士のバリアをすり抜けた理由だな。姫の寝所には武装したものは入れないようになっている。

 ついでに言うと、屋敷の周辺には殺気を持ったものは入れない別種のバリアが張ってあった。

 サカキ、お前はその二重のバリアを破ったんだ。我らが鉄壁の守りと思っていたバリアにそんな欠点があったとはな」

 ユーグは苦笑した。


 ロルドがうなずく。

「城に帰ったら再検討しないとですね」

 ユーグとロルド、周辺の衛士たちは渋い顔をしている。


 その、バリアとやらを破った侵入者を捕らえるどころか見たこともない里人を助けようとしている彼らの騎士の精神は、サカキには理解はできない。

 しかし、この先にどんな見返りの要求が待っていようとも、今差し出された手は利用させてもらうと心に決めた。


 ローシェ王国最速と言われている第三騎兵団と空の荷馬車3台を率い、サカキ一行はフランツ公国と秋津国の国境付近まで白魔導士たちによる移動魔法で到着した。


 白魔法の存在は知っていたサカキだが、実際に経験したのは初めてだ。

 魔導士たちの説明によれば、特定の場所にあらかじめ結節点というものを作っていれば、他の場所の結節点からそこへの移動が一瞬で済むというものである。高位の白魔導士にしかできないが、今ここにはそれだけの魔力のある10人が同行しているという。


 結節点を通るときは一瞬視界が真っ白になるだけで、特に自分の体の感覚に変化はなく、普通に歩いて移動するときと変わりはなかった。

 白魔法は便利だが、戦争などで使われれば恐ろしいことになるな、とサカキは感じた。


 アゲハが事件を目撃してからすでに3時間以上が経ち、月は山に沈んで空が濃紺から薄い青へと変わろうとしていた。

 一行はフランツ公国と秋津国の境にあるユークレア川(秋津では龍田川と呼ばれている)まで来た。

 北方の山脈を水源とし、2つの国の間を流れて南の海まで達する川で、雨季には増水するが今は水深は浅く人の足で渡れるほどだ。

 この川の東西の両岸は緩衝地帯となっている。


「飛べるのはここまでです。この先秋津の国には指標用の結節点がありませんので」

 と、白いフードを被り長衣を着た若い白魔導士が言った。

 名はゾルという。歳は17だが相当の実力者のようであり、他の白魔導士たち数名の中心人物のようにふるまっている。


 よく見ると、先ほどサカキが足を払って転がした衛士であることに気が付いた。

 着替えたらしい。

(怪我はしていないようだ、よかった)


「ローシェが他国で国境を勝手に超えてよいのか?」

 サカキが不思議に思って尋ねると、フランツ公国はすでにローシェ王国の属国となっているとロルドが教えてくれた。


「秘密にしておいてくださいね」

 とロルドが人差し指を自分の口元にあてた。

 なるほど、だからローシェの騎馬隊が近辺で訓練していたのか、納得がいった。


 川を渡ってからは一行の先頭にサカキが立つ。

「ここから山吹の里まで馬の駆け足で一時間ほどだが、近道を行く。半時で着くだろう。

 いつもならこの辺りまでくれば、里の忍者数人が接触してくるはずだが、誰も来ない」


 サカキの顔が歪む。

「見張りもやられているようだ、急ごう!」

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