第13話

「そうか。わかったよ」

「せっかくだから、お金はもらいなよね」

「ああ。ありがとう。母さんからの気持ちだと思って受け取るよ」

「じゃあ、市役所の人にかわるね」そう言って守野さんに受話器を渡した。


「手続きは以上ですので、何かありましたら当日まで質問など受け付けてますので、いつでもご相談下さい」

「はい。ありがとうございました」

席を立ち会釈をすると、私の後ろに数人待ってる人がいる事にはじめて気がついた。

私は、自分より年上だろう人達をチラリと見ると視線を落とし出口へと歩いていった。

帰り道は気持ちが明るかった。

やっと私は人生を終わらす事が出来る。

自分で決めた最後を良いものにしたい、息子や今ある環境、全てに迷惑をかける事なく終わらせたい。

そう思うと久しぶりにやる気になった。

安楽死制度を利用する事は決めていた、だから身辺整理は簡単だ。荷物も増やしていないし、いつでも処分が出来る。

後は、アパートの解約や職場に言うだけだ。

私は頑張って生きた。

思い残す事はなにもない。


次の日すぐに職場に報告をした。

社員の人は少し驚いたような表情をしている。

「来月末に退職したいと思います」

「そうですか。残念ですが最後までしっかりお願いしますね」

社員の男性は笑顔で私にお辞儀をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る