第12話

「河畑秀様の携帯で、お間違えないでしょうか?」

息子は出たようだ。

市役所の生活支援課の守野と言います。今、お母様が安楽死制度を利用したいと来られていて、息子様とは連絡をとっていないと言われましたので、こちらから確認の連絡をさせて頂きました」

「はい、連絡は数年とっていません」

「今はお時間大丈夫でしょうか?」

「あ、はい」

「安楽死制度をご利用の場合に支援金が出ます。お母様は特にご希望はないとのこと。息子様、秀様の選択で大丈夫なのですが。支援金は受け取りますか?」

「あの、ちょっと母にかわれますか?」

「はい、大丈夫ですよ。今かわりますね」


息子が話したいと言っていると伝えられたが、私は電話に出ることを躊躇い、素直に話せるのか受話器を渡されても耳にあてる事が出来ない。

守野さんは、そんな私に言った。

「大丈夫ですよ。息子さんは怒っている様子はありませんでした。泣いているわけでもなく冷静でした。きっと受け止めてくださいます。頑張って」

そう言ってくれた。

この人はここで、何人の制度利用者を相手にしているのだろう。もしかしたら、辛いこともあるのかな。

勇気をだして話した。


「はい」

「母さん、何だよ安楽死制度って、そんなに生活辛いのか?俺に言ってくれたら良かったのに。そんな事考えてたなんて相談の一つでもしてくれよ」

「母さんは、別に苦しいわけじゃないよ、おまえに相談するほど迷ったわけでもないよ」

「もう決めたのか」

「そうだよ。だから今ここにいるんだよ」

「やめるつもりはないんだな?」

「うん。母さんは、もう十分だよ。自分で決めれる時に自分で納得して、お父さんのところに行きたい」

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