第88話

「……」



「……」



取り残された沙那と純は、気まずそうに黙り込む。



だが、リビングの入口で突っ立ったままの沙那を、そのままにしておくつもりはない。



「……良かったら、ここ座るか?」



自分の座っているソファーの隣を指さした。



「……ありがと」



礼を言い、純の隣にストンと座った沙那だが、口をへの字に曲げてムスッとしている。



「……スーのやる気って、どうしたら出るの?」



あくまでも、三上に頼まれたことだけしかするつもりはないのだと態度と表情で示す沙那。



淡々とした事務的な口調に、純の胸がズキッと痛む。



「……沙那……昨日は酷いことを言って、悪かった」



「スーのやる気の出し方を聞いてるんだけど」



間髪入れずに質問を繰り返す沙那。



「……」



沙那に冷たくされたことがなかった純は、ショックで言葉を失った。



「早く答えてよ! でないと、私――」



途中で言葉が続かなくなった沙那の両目から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。



「!」



沙那は冷たい態度を取っていたのではなく、必死に涙を堪えていたのだ。



「……沙那……」



純は、沙那の肩にそっと触れようとして――思いとどまり、やめた。



「スーに迷惑かけるつもりなんてないし……付き合って欲しいなんて言わないから!」



「……」



「本当に悪いと思ってるなら、このままスーのこと好きでいさせてよ……」



「……」



何て言えばいいのか、分からない。



「あんな酷いこと言われても、スーが好きなの……」



「……」



どうするのが正しいのかも、分からない。

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