第87話

「ねぇ、沙那ちゃん?」



三上が、不意に沙那へ笑顔を向けた。



「!」



すぐさまそれに反応したのは、純。



純の中で、三上に対する“嫌な予感センサー”が異常を感知した。



「桐生がね、学校も仕事もやる気が出ないらしくって」



――やめてくれ。



そう言いたかったのに、三上からかけられている圧が強烈すぎて動けない。



「桐生にやる気を出すように、説得してくれないかしら?」



「……え……はい……」



本当はまだ純とは話したくない沙那だったが、三上の威圧感に逆らえなくて頷いてしまった。



沙那の返事を聞いた三上は満足したようで、にっこりと優しい笑みを浮かべる。



「2人っきりで話したいだろうから……そこの女顔のあなた。ちょっと私とドライブでもしない?」



1人ぽつんと置いていかれたような顔をして黙っていた祐也は、三上の笑顔に見惚れてしまう。



「はい、喜んで!」



尻尾をぶんぶんと振り回す子犬のように、三上の後ろについて行く。



「あっ! おい、榊!!」



慌てて止めようとした純の声は、もう祐也には届いていない。



そのまま、2人揃って出て行ってしまった。

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