迷色。

第85話

「……」



「……」



「……」



沙那、純、祐也がそれぞれ意味を持つ沈黙が流れた。



そんな中、1人ドヤ顔をしている三上の目は、いつかの時のようにキラキラと輝いていた。



「……あの、捨て犬を見るんじゃ……」



最初に沈黙を破ったのは、沙那だった。



――違う、そこじゃない突っ込むところは。



純と祐也はそう思ったが、言えなかった。



沙那から電話で“道端で拾った大型犬”と聞いた時点で純は、沙那と一緒にいるのが三上だと悟った。



夜の街で黙って逆ナンパ待ちをしていた純の姿が、首から『可愛がって下さい』という札を下げた捨て犬に見えた……と三上がよく話していたから。



「……ここは?」



誰も答えてくれなかったので、沙那は違う疑問を口にした。



「桐生の家よ」



さらりと答えた三上の右手の中で、この部屋の合鍵がチャリ、と音を立てた。



純の家なのに、この美女はセキュリティが万全なこのマンションを自分で開けて我が物顔で部屋に上がり込んでいる。



「えっと……あの……」



沙那は困惑した目で、三上の持っている合鍵を見つめた。



「!」



純はすぐに沙那の視線に気付く。



「お姉さんも、ここでスーと一緒に暮らしてるんですか?」



「沙那! その人は48歳なんだ!」



沙那の誤解を解こうと慌てた純の口から飛び出たのは、本日4度目のそんな言葉。



(違う、そんなことが言いたかったんじゃない!)



純はそう思ったが、言えなかった。



「48歳!?」



祐也と同じ反応を見せた沙那。



「まだ47歳よ!!」



三上は純を思い切り鋭く睨みつけた。



「なんで、三上さんが沙那を?」



動揺しまくっている純を見かねて、比較的平静を保てている祐也が訊ねた。



「三上……叶和子さん?」



祐也の言葉に素早く反応したのは、驚いたことに沙那であった。



「あら。私の名前を知ってくれているの?」



まだ沙那には名乗ってすらいなかった三上が、嬉しそうな笑みを沙那へと向けた。

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