第84話

「……」



「分かったならホラ、早く沙那に連絡しろやコラ」



急にガラが悪くなった祐也に急かされ、



「……」



純はスマホの画面を操作し、沙那の番号へと電話をかけた。



呼び出し音がしばらく鳴り続け――



『……もしもし』



戸惑ったような、沙那の声。



出てくれなかったらどうしようかと不安だった純は、ほっと息をついた。



「沙那……今、大丈夫か?」



『えっ……あの……大丈夫じゃ、ない……かも』



妙に歯切れの悪い声に、急激に不安が押し寄せる。



「どうした!?」



『何か、全然知らないもの凄く美人な人に“道端で拾った大型犬の元気がなくて、一緒に見に来て欲しい”って言われて……』



「……道端で拾った大型犬……」



とてつもなく嫌な予感がする。



「何だ、どうしたんだ!?」



突然謎の言葉を口走った純に、祐也も訳が分からず慌て始めた。



『うっかりその人に付いてきちゃったんだけど、今知らないマンションの部屋の前まで連れて来られてて』



今にも泣き出しそうな沙那の声。



そして、



――カチャンッ……ガチャッ



この家の玄関扉の開く音。



この部屋の合鍵を持っているのは1人しか存在しないはずで――



「はい、これが道端で拾ったウチの大型犬!」



帰ったはずの三上が、不安で泣き出しそうな沙那を引き連れ、右手の人差し指で純をビシッと指し示した。

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