第82話

「……三上様、カッコイイ……好き」



ほうけた顔で呟いた祐也に、



「何度も言うが、あの人48歳だぞ」



本日3度目の台詞を浴びせた。



「ところで、桐生の本当の母親は、今はどうしてるんだ?」



ふと疑問に思ったので訊ねると、



「あぁ……去年の暮れに、看護師たちの目を盗んで自殺したらしい」



「……おぉぅ……」



想像のはるか上を行く答えに絶句した。



「モデルを始めてから、実は何度か見舞いには行ったんだ。久しぶりに再会した母親は俺の顔を見て……」



純の瞳から、また光が消えた。



「“彼よりももっといい男になったわね”って言って、微笑わらったんだ」



「……」



実の母親にまで、“男”として見られた純。



その時の純の心境は、祐也には計り知れない。



「もしかして、お前が去年まで髪を伸ばしてたのって――」



去年までの純の髪は、腰にかかるくらいまで伸ばされていた。



男性であの髪型が似合うのは、純くらいだと当時は思っていたが。



「母親の俺を見る目が嫌だったからだ」



だから女みたいな髪型にしていたのか。



そして、それをバッサリ切ったのは丁度今年に入ってから。



母親の亡くなった時期を考えると、計算が合う。



やっと、母の呪縛から解放されたのだ。



ここまでは理解出来たが、純の話は想像以上に重くくどい内容で、酷い胸焼けがする。



祐也は胃の辺りを何度もさすりながら、またふと首を傾げた。



疑問が振り出しに戻っている。



純が沙那と付き合えないのは何故なのか?

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