第77話

純の母親の名は、桐生 麗奈れいな



職業は通訳士。



母国語の日本語以外に英語、中国語、フランス語、ドイツ語の全てを流暢りゅうちょうに扱えることで有名で、海外の要人からの指名も多い。



純の父親はドイツの政治家らしいのだが、純は会ったこともなければ彼の名前も知らされていない。



彼が来日した際に通訳として付き添ったのが麗奈で、この時に麗奈は彼に一目で恋に落ちた。



つややかな黒髪に宝石のような蒼い瞳を持つその美形な彼は、女癖の悪さでも有名だった。



しかも、彼は2人の子供を持つ既婚者。



遊ばれていると分かっていたのに、麗奈は一夜限りの関係を持ってしまった。



そしてその時に麗奈のお腹に宿ったのが、純である。



叶わぬ恋の相手に完全に恋焦がれていた麗奈は、未婚のまま1人で産み育てることを決意。



自身の持っている言語力を息子にも伝授しようと、幼少期から外国語の教育に力を入れていた。



そこまでは良かったのだが、問題は純が成長するにつれて明るみになっていった。



純の顔が、恋焦がれていた相手に似てきたのだ。



そこから、麗奈の純を見る目が完全に変わってしまった。



自分をもてあそんで捨てた男への恨みを、純へとぶつけるようになっていったのだ。



食事を与えなかったり、情緒が不安定な時には暴力をふるうこともあった。



純を1人で家に置いたまま、何日も家に帰ってこなくなることも多くなった。



この頃、純への虐待が近所で噂になり始めていたが、あくまで噂のみで実際に見かけた者がいなかったため、通報もしてもらえなかった。



そして、沙那が目の手術を受けるためにアメリカへ渡ってすぐの頃、ついに事件が起こる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る