第75話

純は、はっと顔を上げて祐也を見る。



「……沙那と話したのか?」



「見てられなくて、気付いたら声かけてた」



「……」



沙那と祐也が2人で話しているところを想像しただけで、純の胸がズキリと痛んだ。



「沙那には“俺の本当のこと”を全部話して、今までのこともちゃんと謝ってきた」



どこか吹っ切れたような表情をしている祐也は、やはり純の目を真っ直ぐに見る。



「お前も沙那に何か隠してることがあるのなら、ちゃんと話した方がいいぞ」



「……」



「沙那なら、格好良くない桐生でも受け入れてくれると思う」



髪はボサボサのままでまだ寝巻き姿の純を見て、祐也は笑った。



「!」



「世の中の桐生ファンが見たらショックで気絶するだろうな」



「人前でこんな醜態をさらすわけがないだろう」



ムスッとする純に、



「じゃあ明日から学校も仕事もちゃんと行くんだな?」



祐也は意地悪そうに微笑んだ。



美女からの頼まれ事はしっかりとこなす、ちゃっかり者である。



「しっかしお前ら両想いなのに、なんでこんなにもどかしい事態になるんだ?」



すっかり呆れ顔の祐也を、



「お前、確かこの前『もう二度ともどかしいとは言わないので絶交しないで下さい』ってメッセージ送って来たよな?」



鋭く睨みつける純。



「そうだけど、桐生の中で“もどかしい”は禁句なのか?」



「……もうお前、帰れ」



純は再び布団を被り直して蓑虫になった。



「いや、ごめんって! 冗談だって!」



祐也は慌てて謝り、



「つーか……いい加減、起きて着替えろよ!」



至極真っ当なツッコミを入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る