第70話

「え……?」



「榊と別れて寂しいという気持ちが、そう錯覚させているんだと思う」



沙那から目を逸らし、冷たく言い放った純。



今、この話に祐也は一切関係ないはずなのに。



純は、ずっと優しかったのに。



こんなに冷たい純なんて、知らない。



沙那の気持ちを勝手に決め付けて否定するなんて、こんなに酷いことを平気で言える純なんて、沙那は知らない――



「……なんで、そんな酷いこと言うの……?」



気付けば、沙那は大粒の涙をぼろぼろと零して泣いていた。



「……モデルさんだから、彼女は作れないって正直に言ってくれればいいじゃん!」



「!」



「私の気持ちまで否定することないじゃない!」



「……」



傷付いた沙那の顔を見て、純は初めて表情に後悔を滲ませた。



だが、もう後には引けない事情がある。



「俺の仕事は関係ない。一時の感情に流されるなと言っているんだ」



自分でも、酷いことを言っているのは分かっている。



それでも、沙那を突き放すためにはそう言う以外に思い付かなかった。



「もっと沙那のことを大事にしてくれるヤツと一緒になれ」



最後にそれだけを告げて、席を立つ。



そのまま、部屋を後にした。



部屋の扉を閉めた後で、



「……ごめん、沙那……」



誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、アパートの階段を降りた。



沙那を傷付けるつもりは全くなかった。



ただ、守りたかっただけ。



それでも、沙那の隣に居ていいのは自分ではないと本気で思っているから。



自分の車に乗り込んだ純は、泣きたい気持ちを必死に堪えて、車を発進させた。

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