第64話

沙那に、好きだと伝えてしまいたい。



そんな衝動に駆られそうになる。



もし今、沙那に告白をしたら、彼女はどう思うだろうか?



きっと沙那は、純のことを友達として、幼なじみとして純粋に好いてくれているだけだ。



そんな沙那の気持ちを考えると、



「……」



傷付けてしまうのが怖くて、何も言えなくなる。



そして何よりも、たとえ沙那と両想いになれたとしても、純は沙那とは付き合えない“ある事情”を抱えている。



純のこの気持ちは、一生報われることはないのだ。



それならせめて今だけは、この状況に甘んじてもいいのではないか。



我ながら最低だとは思うが、沙那への気持ちを持て余している純には、沙那を突き放せる余裕はなかった。



純の胸に顔を埋める沙那を、今度は優しく抱き締めた。



「分かった……今日だけだからな」



沙那の実家に泊めてもらっている身分で、こんなことをしていいわけがないのは分かっている。



それでも、そんな理屈や理性だけではどうにもならない程、純の沙那への気持ちはますます強いものになってしまっていた。



「うん。ありがと、スー」



嬉しそうな沙那の笑顔に、純の心臓はドキッと大きく脈打った。



加速していく気持ちに、胸がざわつく。



それでも純は自分の気持ちにふたをする。



下心を抱えたまま、沙那と一緒に眠ることは出来ないから。



そしてこの日の夜は胸に沙那の温もりを感じながら、深い深い眠りに落ちていった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る