第58話

侵入出来たのは、リビング。



純は脱いだ靴を手にしたまま、そろりと移動した。



――ガタンッ!



2階から物音が聞こえ、純は音をたてないように階段へ向かう。



この家の2階へ続く階段は、玄関に上がってすぐの所。



玄関に自分の靴をそっと置き、代わりに傘立てにあったビニール傘を手に取った。



念のために玄関扉の鍵も音をたてないようにそっと解除しておく。



ビニール傘を握り締め、階段を登ると、



「おねがい、やめて!」



「いいから早くくわえろよ!」



男の部屋から、沙那の泣きそうな声と男の怒鳴り声が聞こえてきた。



少しだけ開いたままの扉の隙間から中を覗くと、服を脱がされて下着姿にされた沙那が、ベッドの上で全裸の男に押さえ付けられていた。



一体何をしているのか、この時の純には理解出来なかったが――



――沙那が泣いて嫌がっている……!



その事実だけで、行動を起こす理由としては十分すぎた。



沙那を押さえ付けるのに必死になっている男は、自分の背後に純が立っていることに気付かない。



純は無言のまま、手にした傘を振りかぶり、



「っ!!」



渾身の力を込め、男の右耳目がけて傘でぎ払うようにして殴りつけた。



「がっ……!!」



突然受けた衝撃と痛みで、男の顔が苦痛に歪む。



が、6歳児の力などたかが知れている。



「このっ……クソガキ!」



振り返った男の手には果物ナイフが握られていた。



「!」



先程の純からは見えていなかったが、沙那はこのナイフを突き付けられておどされていたのだとこの時に知った。

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