第53話

弘貴が沙那を溺愛できあいしていることに、純は子供の頃からなんとなく気付いていた。



そして、先程のやり取りから沙那と祐也の付き合いに反対していたことも、なんとなくだがうかがい知れた。



「いや〜、懐かしいね〜」



来客が祐也ではなく純だったと知った弘貴は上機嫌だった。



因みにだが、沙那が祐也と別れたことも、今日純が来るということも、事前に知らされていなかったのは弘貴だけである。



沙那曰く、



「お父さん、過保護でめんどくさいから」



本人が聞いたら号泣必須である。



「純君はしばらくうちに泊まっていくのかい?」



「あ、いえ……どこかで空いている宿を探そうかと」



純の答えに、



「え? 旅館の予約取るって言ってなかったっけ?」



沙那がすかさず反応した。



「もう予約は埋まっていて、キャンセル待ちの状態なんだ」



急遽きゅうきょ決めたことだったので仕方がないのだが、沙那に心配をかけたくなくて今まで黙っていた。



「じゃあうちに泊まっていきなよ。部屋ならいっぱい余ってるし」



流石は沙那の父親。



沙那と全く同じことを言う。



「純ちゃんが来ることは沙那から電話で聞いていたから、晩ご飯だって純ちゃんの分もたくさん用意してるのよ」



幸江もにこにこと勧めてくれている。



「しかし……」



純は困ったように沙那の方をちらりと見る。



「私も、スーがうちに泊まってくれたら嬉しいな」



「……」



好きな子に笑顔でそう言われて断れる男がこの世に存在するのだろうか?



「……では、お言葉に甘えてお世話になります」



ほとんど無理矢理押し切られる形で、純の宿泊先が決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る