第51話

「あ、スー兄だ!」



「スー兄ちゃんだー!」



幸江の後ろから、沙那の弟・如月 朔人さくとと妹・如月 さきがバタバタと走ってきた。



2人とも沙那の2つ下の双子の兄妹で、現在高校2年生。



この年頃の子たちにしては珍しく、反抗期特有のスレた目つきや態度は全く見られない。



母親の両脇からすり抜けるように駆け寄ってきて――母親の両腕に体がぶつかり、抱えていた洗濯物がばさりと足元に落ちた。



「あ……」



沙那の声と、



「「げっ……」」



双子の声が重なり、



「……」



客人の手前、怒鳴ることが出来なかった幸江は無言のままニコリと微笑んだ。



静かに落ちた洗濯物を回収し、



「騒がしくてごめんなさいね。さ、純ちゃんも上がって! お茶を淹れるわね」



青ざめる双子に、ぐちゃぐちゃになった洗濯物を押し付けた。



「今晩のおかずは唐揚げだけど、あなたたち2人の分は1つずつ減らしますからね」



「「え〜っ!!」」



とてつもなく軽い刑だが、双子は本気で悲しそうな声を上げた。



「いいな、こういうの」



ぽつりと呟くように言った純の台詞は沙那の耳にだけ届き、沙那はハッとしたように純を振り返った。



純は、微笑ましそうに双子と幸江を眺めていて、



「……」



沙那はかけるべき言葉が見つからず、黙って純の顔を見つめていた。

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