第50話

途中トイレ休憩や昼食休憩を挟みながら、なんとか午後3時頃には目的地へ到着することが出来た。



門の前に車を停めた純は、目の前の屋敷と呼んでも差し支えなさそうな建物を見上げた。



子供の頃、立派なお屋敷だとは思っていたが、大人になって改めて眺めてみると、入るのを躊躇ためらってしまう程の豪邸。



立派な塀に囲まれた広大な土地。



その中にはこれまた立派な造りの平屋建ての家屋と、趣向を凝らした日本庭園。



目の前の大きな門の右側には、木製の表札に達筆で『如月』と書かれている。



沙那の家は先祖代々より続く茶道の名家。



沙那の父は次男だったので他の土地で暮らしていたが、跡を継ぐ予定だった兄が途中で逃げ出してしまい、沙那がまだ幼い頃にこの家に越してきて跡を継いだ。



そんなややこしい事情を抱えた家ではあったが、沙那の父の性分に合ったのか、家業は上手くいっているようである。



純は自分の荷物はトランクに残したまま、沙那のキャリーバッグと菓子折りを持ち、沙那の後についた。



門をくぐり、立派な庭園を眺めながら玄関に向かって歩いていく。



「ただいまー」



立派な引き戸を開け、沙那が声をかけると、



「あらあら、おかえりなさい」



沙那の母・如月 幸江ゆきえが畳んだ洗濯物を抱えたまま駆けてきた。



そして、沙那の後ろに控えていた純に視線を移し、



「お久しぶりね、純ちゃん」



沙那からあらかじめ電話で純のことを聞いていた幸江は、純ににこやかに微笑んだ。



「ご無沙汰しております」



ぺこりと頭を下げた純。



珍しく緊張した様子を見せる純に、沙那は内心驚いていた。



テレビに出演している時でも堂々としているのに、沙那の家族に対して緊張するなんて。

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