第49話

「本当に良かったの? スー」



純の運転する車の助手席に座った沙那が、真っ直ぐに前を見る純の横顔を覗き込んだ。



沙那の膝の上には小さなショルダーバッグが、車のトランクの中には2人分の旅行用のキャリーバッグが積まれている。



「何がだ?」



「その……私の帰省に付き合わせちゃって」



2人の目的地は大学から車で3時間はかかる場所にある沙那の実家。



「俺の車が届いたら、どこかに連れて行ってやるって約束しただろう」



本当は陽も連れてどこかに遊びに行こうと思っていたのだが、陽は帰省するどころか夏休み中は全て掛け持ちしているアルバイトの予定を入れてしまい、都合がつかなかったのだ。



そんな矢先に、沙那が1人で電車を乗り継いで帰省すると聞き、心配した純が送迎を申し出たのだ。



「スーもうちに泊まっていけばいいのに」



「……それは出来ない」



彼氏でも何でもない男が、お盆期間中に人様の家に上がり込むなど非常識極まりない。



ましてや、好きな女の子の実家に対して、そんな無礼なことはしたくない。



「部屋ならいっぱい余ってるのに」



「そういう問題ではない」



「うちの家族だって、スーに会いたがってるのに」



「挨拶くらいはするさ」



そのつもりで、大学近くにある美味しいと評判の和菓子屋で、季節限定販売の水まんじゅうも用意している。



沙那の家族のことだから、お茶くらい飲んで行きなさいと言われることは目に見えていた。



手ぶらで行くわけにはいかない。

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