第46話

「榊は、何故医者なんか目指してるんだ?」



ふと笑顔を消し、真顔になる純。



「……答える前に、先に桐生の医者になりたい理由を聞かせてくれるか?」



純の目を真っ直ぐに見つめて訊ねた祐也は、真剣な眼差しをしている。



「……もし沙那の手術が成功していなかったら、俺が沙那の目を治してやりたいと思ったんだ」



正直に話した純に、



「……やっぱりそうか」



祐也は右手で両目を覆うように押さえた。



「榊はどうしてだ?」



「……俺は、沙那が看護師になりたいって言ったから」



「……?」



ぽつりと呟くように漏れた声に、純は怪訝そうな顔をした。



「その辺の医者に、沙那をられそうな気がして……だから、沙那の働く病院の医者になろうと」



祐也の言葉に、純は軽く頭を抱えた。



「すまん、言っている意味が……」



「大学に入るまでは、沙那に関わろうとする奴は全部排除してきたんだ」



俯いて前髪を掴むように握り締めた祐也の右手の拳が、小刻みに震えている。



「沙那にとって恋人も友達も俺だけになるようにしてた。女友達にすらも、嫉妬してたから」



「……」



「こんなに好きなのに……あいつには俺しか居ないはずなのに……なのになんで、俺を拒むんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る