第43話

「沙那? どうかしたか?」



沙那の表情の変化にすかさず反応した純。



「あ……ううん、なんでもない。ありがとね」



沙那は慌てて笑顔を浮かべた。



(……こりゃ2人揃って鈍いんだな)



陽は小さく溜息をつき、



「あー、もどかしい」



わざと大きめの声で言い放つと天を仰いだ。



「え? 何が?」



沙那は再び首を傾げ、



「五十嵐、うるさいぞ」



純は相変わらずの鬱陶しそうな視線を陽へと投げかけた。



「煩いのはあたしの声じゃなくて蝉の声ですぅ」



陽はべーっと舌を出し、



「あぁ、すまん。聞き分けられなかった」



純は涼しい顔をして、運ばれてきたばかりのお冷を飲む。



夏休みももう中盤。



有意義に過ごすためには、落ち込んでばかりはいられないのだ。



漫才のような会話をする2人に痛む胸を押さえつつも、沙那はぐっと前を向いた。



そして目の前のグラスをむんずと掴み、



「…………ぷはぁ!」



アイスティーを一気に飲み干した。



「「おぉ……」」



2人が沙那を見たまま固まった。



沙那は、氷だけになったグラスをコースターの上にトンッと置き、



「ご馳走様でした!」



1音1音を強く発音するように言い放った。



「美味かったか?」



沙那にそうたずねる純の表情はとても優しげで……



でもその表情を向けられるのはいつも沙那だけなのに、それを全く自覚していない沙那は、



「……うん」



ズキズキする胸の痛みを隠しながら小さく頷いた。



そんな2人を横目で見ていた陽は、



「はぁー」



小さく溜息をついたが、その声は煩く鳴き散らす蝉の声にかき消された。

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