第38話

そう思っているのに、目が見える以上は見たくないものまで視界に入ってくる。



まるで沙那に見せつけるかの如く、祐也は毎日違う女の子を連れている。



勿論、連絡のやり取りも全くしていない。



無視されるのが怖くて、沙那からメッセージを送ることもしていない。



かれこれ出会って14年、交際を初めて4年の付き合いになるが、これ程までに言葉を交わさなかったことは、今までにはなかった。



このまま、自然消滅してしまうのか――



5歳の頃からずっと仲良くしてきたのに、いきなりこれはあんまりではないか。



そんな文句すら言ってやることも出来ない程に、2人の関係は悪化していた。



以前の沙那なら、きっとこの状況に耐えられなかっただろう。



恋愛でも友達でも、祐也1人だけが心のり所だったから。



でも、今の沙那は違う。



「沙那〜! ケーキバイキング寄って帰ろ〜!」



自分の力だけで出来た、友達がいるから。



寂しくない訳ではないけれど、他に楽しいと思えることがあるから。



「あれ? 陽、ダイエットするって……」



「ケーキバイキングでお腹がはち切れそうになってから始めるね〜♪」



そんな何気ない会話がとてつもなく心地いい。



祐也だけしか居なかった世界では感じられなかった感覚だ。



沙那の世界が目まぐるしく変わっていく。



気付けばもう、季節はせみの鳴き声が賑やかな夏に移り変わっていた――

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