第36話

「……」



沙那には、その純の背中を黙って見送ることしか出来なかった。



「……兄っぽいっていうより、保護者っぽいかも」



沙那と同じように、純の後ろ姿を眺めていた陽が、ぼそりと言った。



そんな陽に、沙那は、



「……もう、陽ってば!!」



じとっとした目を向けた。



「見ていてヒヤヒヤしたじゃない!」



と沙那が怒っているにもかかわらず、



「……桐生君って」



(――沙那のことが好きなの……?)



陽は1人、スプーンを口にくわえたまま、考えにふけっていた。



……そういえば、沙那の食べかけのパスタも、何の躊躇ためらいもなく口に運んでいたし……



それに何より、沙那を見る純の表情。



あんなに柔らかい表情で、あんなに優しい眼差しで、沙那を見るなんて――



やっぱり、そういうことなんだろうか?



沙那と裕也と純の3人の関係は、沙那から少しだけ聞かされていた陽。



3人のことは少ししか知らないけれども、それでも陽から見た純の表情は、



とても温かくて優しげで、



何とも言えない切なさが、やけに印象に残った。

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