第35話

「ねぇ、桐生君ってハーフなんだよね?」



何だか陽は、純に興味深々なご様子。



「……まぁ、そうだな」



何故か、純の顔から一瞬で笑顔が消えた。



そんな純に、沙那はドキリとする。



陽の質問は、沙那でも踏み込めなかった領域のものだったから。



「アメリカ人……には見えないか」



黙りこくる沙那を差し置いて、陽はどんどん踏み込んでいく。



「……父親が、ドイツ人なんだ」



純が、ぽつりと呟くように答えた。



その瞳が長い前髪に隠れていて、表情をうかがうことは出来なかったが。



「あ、あの、スー……」



「さて、俺はそろそろ行くよ」



何かを言いかけた沙那の言葉を遮り、純はスッと立ち上がった。



そのまま、陽に向き直る。



「……五十嵐、だったな?」



「えっ? うん……」


陽は、思わず姿勢をびしっと正す。



「これからも、沙那のことよろしく頼むな」



純は、陽ににっこり微笑むと、沙那の頭をポンポンと優しく撫で、食堂を後にした。

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