第34話

「田舎者のあたしにしてみれば、目の前に芸能人がいるってだけで恐縮ものだもん」



そんなことを言い切る陽に、純は小さく溜息をつく。



「俺は、芸能人ではないけどな。アパレル会社の宣伝の手伝いをしているだけだ」



それはその通りなのかもしれないけれど、その仕事はそう簡単にこなせるようなものではないわけで……



「でも……」



陽は少し不満そうな顔をする。



「あ、でも、普段は私達と同じ大学の仲間なんだし、せめてさん付けはやめようよ!」



その場の空気が嫌だったのか、沙那はわざとらしいくらいに明るく、そう提案した。



「仲間かぁ。うん、確かにそうだね」



納得したように頷く陽。



それを見た沙那は、やっと安堵の笑顔を浮かべ……



そして、そんな沙那を、純は眩しいものでも眺めるかのように目を細めて見つめていた。

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