第20話

「沙那」



俯く沙那を、純は優しく呼んだ。



沙那がゆっくりと顔を上げると、



「迷子になったら、ちゃんと人に聞くんだぞ?」



そこには、意地悪げに微笑む純の顔。



何か言い返したい所だけど、重度の方向音痴である沙那は、そんな術を持ち合わせてなくて――



「……」



無言のまま、純を上目遣いに睨みつけた。



純は、そんな沙那を見てふっと笑みをこぼすと、むくれ続ける沙那の頭に右手をぽんっと優しく乗せた。



「大丈夫だ。沙那なら、ちゃんと友達くらい出来ると思うから」



その言葉と同時に沙那の頭から手が離れていき、純は医学科の棟へと歩いて行った。



「ちょっ、スー?」



驚いたような彼女の声が背後から聞こえてきたが、純はそれを無視して歩き続けた。



今の沙那に必要なのは、自分でも祐也でもなく、女友達だと思うから。



自分が彼女の傍にいては、きっと彼女の邪魔をすることにしかならないと思うから……

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