第16話

「……」



でも、沙那は黙ったまま首を横に振るだけ。



話し出す気配の全くない沙那に、純は小さく溜息をつく。



そして、皆で紅茶を飲んだ時に使ったテーブルの下に、黒一色のスマホがあるのに気付く。



この部屋の主のスマホは、板チョコを模したケースが付けられ、テーブルの上に置かれている。



その黒いスマホが、この部屋の主の持ち物ではないことは明らか。



純は、その黒い方のスマホを拾い上げると、沙那の方へ向けた。



「一応、俺の番号を教えておく」



「……え?」



意味が分からず、きょとんとする沙那。



「何かあったら、電話してこい……それとも、俺の番号なんて要らないか?」



そんな残念そうな言葉とは裏腹に、純の口角は上げられている。



「えっ……い、要る!!」



沙那は、慌ててテーブルの上の自分のスマホを掴んだ。



ただ純粋に、幼なじみと連絡が取り合いたかっただけだった。



だが、沙那にとってはそれだけのつもりでも、



場合によってはそれが大きな誤解を招くことになろうとは、この時の沙那は夢にも思っていなかった。

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