第14話

「スー、急にどうしちゃったんだろう?」



沙那は1人、首を傾げる。



そんな沙那に、祐也はそっと歩み寄り、



「……沙那」



彼女を思い切り抱き締めた。



「えっ、ユウ? ……んっ……」



沙那は何か言いかけたが、すぐに祐也に唇を塞がれて、言葉にならなかった。



そのまま、沙那は祐也に抱き上げられ、ベッドの上まで運ばれる。



ベッドに寝かされ、その上に祐也が覆い被さってくる。



「ユウ……?」



「……」



無言のまま沙那を見つめる祐也の顔は、いつもの可愛らしい顔ではなく、真剣な眼差しをした男の顔。



そんな祐也に、沙那は恐怖心すら抱くほど。



怯えた顔をする沙那に構わず、祐也はその首筋に唇を落とす。



「やっ……ま、待って……やだ!!」



沙那は思わず、祐也の胸を両手で押して拒んだ。



「……!」



その瞬間、沙那から離れた祐也の顔には、物凄く傷付いた表情が浮かんでいた。



「ごめん……」



その顔を沙那から隠すように、そっぽを向く祐也。



祐也と沙那が付き合って3年半以上が経つが、未だにキスより先の関係に進めずにいた。



沙那が一方的に怖がって出来ないのだ。



祐也は今までに、沙那に無理矢理迫って泣かれてしまったことも、何度かあった。



「ごめん……俺も、今日はもう帰るから……」



祐也は、静かに立ち上がり、玄関に向かう。



「……ごめんな」



ドアがバタンと音を立てる直前に聞こえた祐也の声。



でも、沙那はそれに応えることが出来なかった。



世の中のどの男の人よりも、祐也のことが一番好きなのは確か。



でも、心のどこかでは、その祐也を一番恐れているのも事実で……



どうしていいのか分からなくなった沙那は、誰もいなくなった部屋で、1人泣いた。

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