第9話

そして、大学近くのコインパーキングに辿り着き……



そこに停められていた真っ白いセダン――250GTタイプのスカイラインに、純は当たり前のように近付き、ロックを解除した。



「……」



「……」



沙那と祐也は、それを無言のまま、遠巻きに眺めていた。



そんな2人に、純は怪訝けげんそうな顔を向ける。



「なんだ、乗らないのか?」



「……それって、大学生の乗るものじゃないだろ……」



呆れたような祐也の声にも、純は首を傾げただけで……



一般庶民と芸能人の差を見せつけられた気がしたのだった。



しかし、車の価値なんて全く分からない沙那は、



「スー、車の運転出来るんだ、すごーい!」



なんて呑気に笑っている。



「……あのな、沙那。俺だって一応、免許くらい持ってるからな?」



そんな祐也の声は、何だか虚しい。



「だったら、少し運転してみるか?」



純は言いながら、祐也に車のキーを差し出す。



「……俺の免許、AT限定だから……」



悔しそうに純のキーと車を交互に眺め、祐也は呟くように言った。



この車は、実はMT車。



AT限定の教習しか受けなかった祐也には、この車の運転は無理なのだ。



「……」



無言のまま、差し出したキーを引っ込める純。



そんな純に対して祐也は、



「仕方ないだろ……AT限定の方が教習料が安かったんだから」



ブツブツと呟くように言った。

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