第8話

その沙那の声に、目の前の彼は無言のまま頷く。



……その表情は、未だに不機嫌そうなまま。



……きりゅうすなお……



彼女は、頭の中でもう一度呟いた。



そして、彼の名前が、沙那の中の遠い記憶と繋がり――……



「……もしかして、スー!?」



純、もとい、スーと呼ばれた彼は、ムスッとしたまま頷いた。



沙那と純も、5歳の頃からの幼なじみ。



昔は、祐也も加えた3人でよく遊んでいた仲だ。



しかし、純は、沙那が眼球の移殖手術のためにアメリカに行っている間に、突然別れも告げずに姿を消した。



当然、沙那は純の顔も知らなかったのだから、雑誌で純のことを見かけても、それが純だと気付くわけがなかった。



「手術、成功したんだな。良かった」



純がそう言いながら沙那の顔に手を添えれば、ギャラリーがざわつき始める。



そこへ、祐也が2人の間に無理矢理割り込んだ。



「沙那は、今は俺の彼女だから……」



そんな祐也に、純は一瞬だけ驚いたような表情を見せたものの、



「……そうか」



すぐに沙那から手を離した。



そんな彼のスーツの袖を、沙那がくいくいっと引っ張る。



「ねぇ、スー……」



「ん?」



見下ろすと、そこにはふてくされた顔をしている沙那。



「ここ、人が多すぎて何かイヤ……」



彼女にそう言われ、周りを見渡すと、先程よりも沢山の野次馬達。



「……場所変えるか」



純はくるりと身をひるがえし、門の外に向かって歩き出した。



沙那と祐也も、慌ててそれに続いた。

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