書かされた誓約書

第12話

「誓約書って何ですか? 家政婦と子守りだと聞いてたんですけど……」


「その通りです。ただ、あなたが担当するのは長年メディアで活躍している有名な方になります」



「……そんな話聞いてません」


「ですので、2ヶ月前から『隠キャで地味で口が固くて友達がいなくて子ども好き』という条件で求人を出したのですが、該当する方がいらっしゃらなくて……。そこでご紹介という形にさせて頂きました」



「そうですか……。つまり、私が適任だと??」


「はい」




きっぱり言いきったけど、この人も叔母さんも結構失礼だよね……。

遠回しに私が隠キャだと言ってるし。

確かに、その条件じゃ時給が良くても見つからないわ。




「誓約書は秘密保持の為ですか?」


「その通り。彼は素性を隠しながら一般の高校に通っています。あなたに求めているのは日常的な手助けです。但し、必要以上に関与や深入りをしないで欲しいのです」



「ちょっと待ってください! 子守りと聞いていたので雇い主はてっきり成人してる方かと……」


「いいえ。彼は現在17歳で4歳の妹と2人暮らし。現状は17時まで弊社のスタッフが、21時までは仁科さんが妹の面倒を見てました。しかし、仁科さんの後任が決まってない状況でして。彼の帰宅は21時頃ですので、その時間まで勤務をお願いしたいのです」




高時給につい食いついてしまったけど、やっぱり訳ありだった。

でも、叔母さんは出産を控えてるからこれ以上働けないし、私は家計を支えなきゃいけない。

それに、彼も仕事を抱えてる上に幼い妹の預け処がなくて困ってる。

だから、迷う以前に選択肢は一つしかない。




「わかりました。私に務まるかどうかわかりませんが……」


「ありがとうございます。では、誓約書と履歴書に記載をお願いします」



「はい」


「あと、もう一点あります」



「何でしょうか?」


「絶対に彼に好意を寄せないで下さい。メディアに露出が多い職業柄、恋沙汰は仕事に支障をきたしてしまいます。万が一、雇用期間中に恋愛が発覚した場合は退職していただきます。それに加えて、退職後も一切関わらないと約束して欲しいのです。あなたも秘密保持者の1人になりますから」




私には彼の言ってる事が少し大げさに聞こえた。

雇い主すら明かされてない時点で恋愛が発覚したら仕事を辞めろ?

しかも、退職後も一切関わらないで欲しい?

もしかしたら、ここまで釘を刺すには特別な理由があるのかな。


……でも、私には関係ない。

憧れの二階堂くんの近い存在になったばかりで幸せだから。



この時の私は、話半分に聞いて二枚の書類にサインをした。

誓約書という一つの縛りが、数ヶ月後の自分の心に明暗を分ける事になるとも知らずに……。

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