第二章

不思議な面接

第11話

ーー翌日の午後。

制服姿のまま母親から面接の場として言い渡された、駅から徒歩2分の有名コーヒーチェーン店に向かった。

店内に入って顔を左右させながら見回すと、中央席に座ってる叔母が気づいて手を振った。




「おぉ〜い、結菜ちゃ〜ん! こっちこっち〜!」


「あっ、由美叔母さん!」




彼女の隣に目を向けると、スーツ姿の30代くらいの男性がスクッと立ち上がって一礼した。

彼は前髪を立ち上げた短髪で銀色のフレームのメガネを着用していて、紺色のスーツ姿でいかにもビジネスマン風。

少しお固めな雰囲気に身が引き締まる。


私は彼の向かいの席の前に立って一礼をした。




「お待たせしました。早川 結菜と申します」


「初めまして。風波エンターテイメントの堤下と申します」




両手で差し出された名刺を両手で受け取って名前を確認した。


あれ……、風波エンターテイメント?

ここって大手芸能事務所じゃない?

家政婦と子守りと言われたから、てっきり裕福な家庭に入るかと思ってた。


しかも、アルバイトの面接と言ったら事務所で書類を書いてシフトの話をするのが主流だけど、こうやってお固く名詞を受け取るのは初めて。




「どうぞおかけ下さい」


「あ、はい……」




恐縮気味に返事をすると、叔母はテーブルに手をかけて立ち上がった。

重々しいお腹を見た途端、出産間近だとより感じさせる。




「じゃあ、私はそろそろ行くね。面接頑張ってね」


「叔母さん、色々とありがとう。出産頑張ってね」


「仁科さん、ありがとうございました」



「堤下さん、結菜ちゃんをよろしくお願いします」


「かしこまりました。では、また後日ご連絡致します」




叔母はニコリと微笑み、私に軽く手を振って出口へと向かって行った。

2人きりになると、彼はひざに置いたカバンの中から二枚の書類を出してテーブルに置き、ブレザーの胸ポケットに挿しているペンを横に置いて本題に入る。




「仁科さんからこの仕事は秘密厳守という話を聞いてますか?」


「母親を通してですが……」



「そうですか。実は、私はある方の芸能マネージャーを行っております。そこで、今回早川さんには彼の家政婦をして頂きたいのです」


「内容は簡単に聞いてます」



「じゃあ話が早い。では、早速こちらの履歴書と誓約書を書いてください」




彼はそう言うと、手元の書類をスッと前に差し出した。

二枚重ねられている書類を見て驚いた。

履歴書を書く理由はわかるけど、誓約書を書く理由がわからない。

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