高鳴る胸の鼓動
第23話
セイくんのステキな歌を聴き終えると、私は素直な感想を伝えた。
「透き通った歌声だね。聞き惚れちゃうくらい素敵」
「あのさ…、鼻をすすっているように聞こえるけど。…ひょっとして、泣いてんの?」
「うん、一度涙が出たら止まらなくなっちゃった。セイくんって歌手?本当に歌が上手いよ」
「そう?サンキュー」
意外だった。
歌の教室の先生が作詞作曲したのに、まさかセイくんがこの曲を知ってるだなんて。
実は、結構有名な曲なのかなぁ。
「あんたさぁ、結構鈍いんだな」
「…え?いま何て?」
「いや、こっちの話」
「実は好きな人に再会したら、彼とこの曲を一緒に歌いたかったの」
「へぇー。俺で良ければ、いま一緒に歌うけど」
「いくらセイくんがこの曲を知ってるからって、それだけは譲れない。思い出は大事にしたいの。それに、私の話ばかりじゃなくて、今度はセイくんの話が聞きたいな。好きな人の話とか」
「まさか、俺の情報を売って金にするつもり?あんたって意外とズル賢いんだな。」
「違うよ…。まだセイくんの顔も知らないのに」
「はは、嘘だよ。いま音楽プレイヤー持ってるけど、良かったら聴く?」
「うん、聴く」
セイくんは自分の事を話さない。
芸能人だから個人情報を守るのは当たり前か。
飴を渡した日と同じく、カーテンの下から手が伸びるような音がした。
もう自分側のカーテンを開けなくても、手を伸ばすだけで彼から物が受け取れる。
その瞬間。
互いの指先同士が触れたと同時に、胸がドキドキと高鳴った。
私達、お互いの顔さえ知らないのに。
「これ、洋楽のR&B?」
「そう、昔から好き。さっき歌ったら喉乾いたから、あの星型の飴ちょうだい」
「いいよ。カーテンの下から受け取ってね」
養護教諭の不在時にだけ交わされる秘密の会話に胸が弾む。
謎めいた彼との狭い世界の特別な時間。
彼の事をよく知らないのに。
ただ、今セイくんに関してわかってる事は。
温かい指先と、星型の飴が好きな事と、星マークの理由と、R&Bが好きな事。
それに、セイくんは歌手であり、透き通った聴き心地の良い歌声を持つ事だけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます