魔法の飴

第17話

幼い頃の私の夢は歌手。


小学校に入学してから約五年間、二駅先にある声楽教室に通っていた。




同じ声楽教室に通っていた皆川くんは、初恋相手であり憧れていた人でもあった。



当時、背が二センチほどしか変わらない彼は、目の下の泣きぼくろが二つあったのが特徴的であった。



彼は影の努力者。



歌のテストの日が近付くと、誰よりも早めに来ていた皆川くんは、教室の隣にある非常階段で、小さく声を響かせながら一人で歌の練習をしていた。




彼の透き通った声は、声量、音程、抑揚、こぶし、ビブラート、フォールは非の打ち所がないほど完璧な歌唱力の持ち主。



同じく歌手を夢見ていた私は、涙を流しながら彼の魅力溢れる歌声に聞き惚れていた。



何度練習しても自分の歌声に満足いかず、テストの最中に泣き出す私に、『これは、歌が上手くなる特別な飴だよ』と言って、いつも持ち歩いていた星型の飴を私だけにプレゼントしてくれた。




彼がくれる飴は私にとって特別であり、歌を歌う勇気を与えてくれた。




あの頃は歌手になる夢を抱いて必死に練習したが、諸事情で仕方なく夢を諦めなきゃいけなくなった私は、レッスンが最後だった大雪の日に彼に別れの言葉を告げた。



すると。


彼は口から白い息を零しながら、モゾモゾと恥ずかしそうに鼻を赤らめて言った。




「足首が浸かるくらい大雪が降ったら、俺達はまた会おう」




彼との別れが耐えられず泣きじゃくる私に、彼は照れ臭そうに再会を誓ってくれた。




でも、私達は小学生でまだ幼かったから、再会の時期とか場所とか明確な情報を交わす前に別れてしまった。



だから、この思い出の星型の飴だけが、彼との再会の頼み綱となり、勇気の飴としていつも持ち歩くようになった。



星型の飴を見ると勇気を与えてくれた彼を思い出し、医師を目指す事になった私が辛い勉強にもくじけぬよう気持ちが前向きになれるようにという願いを込めて、いつもポケットの中にお守りとして忍ばせている。

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