飴をくれた理由
第18話
カーテンの向こう側で相槌を打つような声すらしないから、果たして彼が本当に私の話を聞いているかどうか分からなかった。
まるでひとり言のような私の話を黙って聞き終えた彼は、数分ぶりに口を開いた。
「あんたは、そいつのどんなところが好きだったの?」
「やっぱり、透き通った歌声かな。半分憧れで半分恋。彼の歌が魅力的だから、彼の歌の順番になると異様に胸がドキドキしちゃったりして」
「ふーん、魅力的な歌声…か」
「大雪が降ったら彼に会えるかな、なんて未だに再会を期待しちゃったりして。大雪の日に彼と再会した時に私がこの飴を見せれば、少しは記憶の頼りとなって私の事を思い出してくれるかなって」
「…でも、そいつは何であんただけにその飴をくれたんだろうな」
「わかんない。他の子と比べると、私の歌唱力が圧倒的に劣っていたからかな」
セイくんが言う通り、彼が私にだけ飴を渡す理由を今まで深く考えた事がなかった。
いつも星型の飴を持ち歩いていた事も、いま考えてみると謎に思う。
「また、そいつに会えるといいな」
「でも、あれからもう六年経ったし、皆川くんはもうその約束を忘れちゃってるかもね」
「…いや、しっかり覚えてるかもよ」
「えっ…」
驚きの声でカーテン越しの彼の方に目を向けて返事をした、その時。
ガラッ…
「セイ。もう時間だよ」
保健室の扉が開き、暫く席を外していた養護教諭は、扉方向から彼の名を呼んだ。
「…ごめん。時間が来たから、もう戻らないと」
「ん。バイバイ、セイくん」
ベッドから立ち上がる音とカーテンの開く音が聞こえた後、二つの靴音は徐々に扉方向へと遠退いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます