プライベートな時間

第16話

「いまから飴を渡すから、そっち側のカーテン開けていい?」


「それは、絶対ダメ。何があってもカーテンだけは絶対開けないで」



「何で開けちゃダメなの?」


「今はプライベートの時間だから」




セイくんは、自分側のカーテンが開けられる事を頑なに拒んだ。



私はセイくんのベッドのカーテンが開けれなくて、少し残念な気持ちだった。


でも、セイくんは芸能人だから、仕事以外では人と顔を合わせたくないのかな、とも思った。




「じゃあ、どうやってセイくんに飴を渡せばいいの?」


「今からカーテンの下に右手だけ伸ばすから、俺の手の平に飴を乗せて」




カーテンも開けずに下から飴をくれという彼の偏屈な態度に、少し可笑しく思った。



先に、渋々自分側のカーテンを少し開くと、セイくんの手首から先がカーテン下から伸びていて、手が受け皿になっていた。



だから私は、セイくんの言う通り、持っていた飴を彼の手の平に乗せた。




「はい、飴をどうぞ」


「サンキュー」




飴がセイくんの手元に渡ると、カーテンの向こう側に手がスッと引っ込んでいった。


セイくんは、指が細くて長くてキレイな手をしていた。


でも、なんか受け取り方に可愛げがない。




同じ学校の生徒とはいえ、芸能人である自分の素性を知られたくないから、やっぱり自分側のカーテンは開けたくなかったんだね。


仕方ないっか。



すると……。




「…この星型の飴」




少し掠れるようにポツリと呟いたセイくんに、私はすかさず返答をした。




「これは、歌が上手くなる特別な飴なんだ」


「え…。これは歌が上手くなる飴?」



「うん、昔、好きな人にそう言われて、この飴を貰ったの。とうの昔に歌を辞めた私には、この飴は勇気が出る飴として肌身離さず持ってるんだ。」


「ふーん、あんた歌をやってたの?」



「うん。でも、未だにこの星型の飴を持ち続けてるには理由があるんだ」


「…へぇ。その話、もっと詳しく聞かせてもらってもいい?」




初めて私の話に興味を湧かせたセイくんからは、ビリっと飴袋を開封する音が響いた。

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