二人の約束

第4話

私が歌を辞める事になった、小学5年生の時の声楽教室の最終日。


最後のお別れのセリフを伝えた私に、彼は瞳を潤ませながら再会の約束を口にした。




『足首が浸かるくらい大雪が降ったら、俺達はまた会おう』




小さく『うん』と伝えた返事は、壊れそうに咽び泣く声の中に紛れ込んだ。






しかし、あの日に彼と別れてから数年間、足首が浸かるほどの大雪は一度も降らなかったし、再会の場所すら決めていなかったから、もう二度と会えないんじゃないかと、諦め半分だったけど…。



それから約6年後、高校の保健室のベッドにて、知らぬうちにカーテン越しの再会を果たしていた。




彼は窓際のベッドがいつも特等席だった。

カーテンは毎回閉ざしたまま。

カーテン越しから、疲れたような声だけが届くような状況が続いていた。




でも、再会を願っていたはずの2人がこんなに近くにいたのに、最初はお互いの存在に気付かなかった。




ベッドを囲むカーテンで仕切られた空間と、保健室利用記録表とベッドのサイドに置かれている上履きに名前の代わりに書かれていた星マークというトップシークレットな個人情報が、すぐに彼だと気付かない要因だった。

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