濡れたジャージ

第22話

キンモクセイの香りが漂い始めた、10月の中旬に差し掛かったある日。

先生一筋な私の心を揺るがす事件が、何の前触れもなく訪れた。





5時間目は体育の授業の為、梓と紬は昼休み中に更衣室へ移動し、着替え終えてから体育館へ向かうと……。




プシューッ……




突然、着替え終えたばかりの梓のジャージの上着が、噴水のように噴き出してきた水によってびっしょりになった。



梓は水が飛んできた方向に目を向けると、体育館の手前の水道には花音の姿が。


花音は水道のハンドルを最大限に捻り、勢いよく流れ出る蛇口を指で半分塞いで、梓の居る方向を目掛けて水がかかるよう仕向けていた。





花音は梓の上着がビッショリになったところを確認すると、ハンドルを捻り返して水を止めた。

色が変色してしまうほどずぶ濡れになったジャージからは、水がポタポタと滴っている。




「あーっ、水かかっちゃったぁ?なんかさぁ、水の出が悪くていじっていたら、急に吹き出して来ちゃってぇ。」




反省の色どころか嘲笑っている花音の瞳は、ライバル心がむき出し状態に。

見下す目つきと言動からして、明らかに私を狙っていたと思われる。






こんな低レベルな嫌がらせは、今日が初めてじゃない。

花音は、昔から私に度重なるストレスを与えてきていた。




キーン コーン カーン コーン




「あっ…、予鈴だ。もう行かなきゃ。」




花音は嫌がらせに満足すると、軽やかな足取りで体育館へと向かって行った。



ビショビショになったままその場に取り残された私は、あまりにも意に沿わない出来事に言葉を失う。

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